2011年12月23日

「東洋顔」のロシア人

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 ロシアという国は多民族国家だとよく言うけれども、実にその通りであって、まるで世界の縮図を観るかのような印象を覚えるほどに、さまざまな「顔」に出会うことが多い。日本人のような「東洋顔」というのも珍しくなく、一見したところ、おやおや、と思ってしまうロシア人に出会うこともある。もっとも、しぐさや雰囲気からすぐに日本人ではないことは分かるのだが、もしも日本風のファッションに身を包んでいる彼らの静止画でも突きつけられようものなら、どこの人であるかを判別するのが難しいかもしれない。

 僕の友人に、まったくの「東洋顔」を持った男がいる。一緒に歩いていれば同族と間違われるかもしれないくらいの顔なのだ。彼が流暢にロシア語を話すものだから、ロシア人だと分かるだけであって、仮に東京に彼をポツンと置いてみれば、おそらくほとんどの人は日本人だと信じて疑わないだろう。

 あまり詳しいことは語ってはいないし、こっちからも聞きづらいこともあってか、彼の詳しい出生については知らない。ただ、「〜共和国」系であることは、いつだがほのめかしていた記憶がある。外国では政治、宗教、そして民族の話題はタブー視されるけれども、ロシアも例外ではなく、自分の出身についてあまり話したがらない人も少なくないという。

 その「東洋顔」の友人とは留学中に知り合い、他のロシア人たちとも交えながら一緒に遊んだ仲だった。少なくとも当時の僕の眼からすれば、彼はスラブ系の、いわゆる「ロシア人」と上手くいっているような気がしていて、やはり友人関係とかなら民族なんていうのは問題にならないんだ、と楽観視していた。しかし、その楽観は本当に認識の甘さに他ならなかった。

 先月モスクワを訪れたときに、友人たちと再会を果たした、という話ははしたけれども、その彼とも久しぶりに顔を合わせることができたのだった。相変わらずの屈託のない彼の微笑みに安堵を感じ、他のスラブ系のロシア人の友人とも接していたけれども、何か彼の他のロシア人に対する態度が妙によそよそしい感じがあった。「東洋顔」の彼と思い出話をしていると、彼はおもむろに声をひそめた。

「最近、俺はあのグループ(留学中に仲よくしていたスラブ系ロシア人の多いグループ)とは一緒にいないんだ。」
「ん?」
「なんたって、俺はアジア顔だろ?だからちょっといづらくてね……。」
「……。」
「日本に行きたいなあ。あそこならみんなアジア顔だし、俺がいてもおかしくないだろ?」
「まあ、そうだな……。……。」
 
 彼の放った些細な言葉は、どこか陰を帯びながらズシリと重みがあった。僕が知らないところで、彼は彼なりに悩みを抱えていたのだろう。それもとってもデリケートな問題を。思えば、そのときに彼が一緒に連れ添っていた友だちもまた、「東洋顔」だった。

 彼に何があったのか知らない。彼が何を思ってそう言ったのかも分からない。こういう悩みを抱えている人の気持ちは、当事者でなければ理解はできない。ただ、何か重々しく彼に圧し掛かっている深刻さは、彼の言葉の雰囲気にあった。へへっとほくそ笑みながら、どこか諦念を感じさせる目で、それでいて彼の現状を伝えようとする感じがあった。


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posted by Itta Tojiki at 21:10| Comment(0) | ロシアの社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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