2011年10月04日

「ユーラシア国家」としてのロシア

 次期大統領にプーチンの返り咲きが濃厚になったことは、ここ最近マスコミを賑わせています。特段ロシアに興味のない人でも、プーチンという名ぐらいは知っていて、今回の大統領をめぐる一連の報道には、何かしらの関心を寄せている人も多かったような気がします。
 さて、プーチン関連のことで、非常に面白い記事が舞いこんできました。

ロシア:プーチン首相 「ユーラシア同盟」創設構想
【モスクワ田中洋之】ロシアのプーチン首相は4日付のイズベスチヤ紙に論文を発表し、20年前に崩壊したソ連の再統合を念頭に、ロシアと周辺諸国による「ユーラシア同盟」の創設構想を打ち出した。確実視される来年5月の大統領復帰に向けた新たな外交政策として注目される。
 プーチン氏は論文で、ロシアとカザフスタン、ベラルーシで構成する関税同盟や、この3国で来年発足する「統一経済圏」など旧ソ連の経済的再統合の動きに触れたうえで、ユーラシア同盟構想は「より高いレベルの統合に進む野心的な目標」と強調。ユーラシア同盟は「ソ連の再建ではない」としつつ、「新たな価値や政治・経済的な土台に基づく緊密な統合は、時代の要請だ」と述べた。
 プーチン氏はまた、旧ソ連に残るインフラなどの遺産を活用するのは「我々の共通の利益」であり、世界的な経済危機の影響を克服し、成長を続けるには、大国ロシアを中心に旧ソ連諸国が再結集すべきだとの考えを示した。
 旧ソ連では、ロシアが主導する関税同盟に中央アジアのキルギス、タジキスタンが加盟を検討。ロシアはウクライナにも加盟を求めており、プーチン氏としては関税同盟を将来的にユーラシア同盟へ発展させたい考えとみられる。
 一方、旧ソ連11カ国でつくる独立国家共同体(CIS)は形骸化が進んでおり、新たな同盟構想を打ち上げることで、ロシアが勢力圏とみなす旧ソ連での求心力を高める狙いもありそうだ。
 プーチン氏は大統領時代の05年、1991年12月のソ連崩壊について「20世紀最大の地政学的な悲劇だ」と発言していた。


 ここでは、「ユーラシア」という言葉がひとつのキーワードになります。ロシアには、「ユーラシア主義」という考え方があって、ヨーロッパでもアジアでもない、「ユーラシア国家」としてまとまってゆくべきだ、という内容を指します。もともと1920年代の、亡命ロシア人の知識人の間で発生した思想潮流なのですが、近年、とりわけソ連崩壊以後、ロシアのアイデンティティの拠り所のひとつとして注目されておりました。現代では、「ネオ・ユーラシア主義」とも呼ばれるそうですが、実はプーチンやメドベージェフは、この主義者だと言われています。

 ユーラシア主義に関しては、以前当ブログでも簡単に紹介したことがありました。

ユーラシア主義の概要

 それを考慮すると、今回の「ユーラシア同盟」の構想は、十分に的を射たものだといえます。また、この同盟において経済的側面が強いことも、ユーラシア主義らしいところがあります。
 ユーラシア主義を論じるに当たり、ユーラシアの「気候帯」に着眼する考え方があります。ロシア国内には、砂漠からツンドラ、ステップ、タイガ、亜熱帯林、広葉樹林まで、さまざまな気候区分がありますが、元来、これらの地域は相互に経済物流の移動を通じて助け合っていたといいます。つまり、相互に依存し合いながら、ユーラシア文化とも言うべくものが形成されていたことを意味し、これによってユーラシア国家の存在意義を強めるわけです。
 経済の結びつきによるユーラシア、という考え方も、もともとのユーラシア主義の観念に沿っているのです。

 ユーラシアとしてのロシア、というのは、ロシアのアイデンティティを支えるひとつの強力な思想です。これは、ヨーロッパや中国に対するひとつの牽制とも受け取れるように思えます。ヨーロッパ寄りでもなく、アジア寄りでもなく、ユーラシアだ!という明確な区分の表明なわけですから。

 少し長くなりましたが、このプーチンの構想は、一言で言えば「筋が通っている」ということでしょうか。現在の中央アジアの状況を考慮しても、実現の可能性が低くなく、地に足着いた策だと言えます。

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posted by Itta Tojiki at 22:33| Comment(0) | ロシアの外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月24日

朝鮮半島へのガスパイプライン

 ここ数日、北朝鮮とロシアの間での首脳会談が話題となっております。核の問題や六カ国協議など、日本にとっても関連のあることがらについて話し合いがもたれていますが、今回注目したいのは、朝鮮半島へのガスパイプラインのことです。

>ロ朝、ガス輸送路敷設合意 金総書記、6者協議復帰示唆 ロシアのメドベージェフ大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョン・イル)総書記が24日、東シベリアのウランウデで会談した。両首脳は、ロシア極東から北朝鮮を経て韓国に天然ガスを送るパイプラインの敷設事業への協力で合意。核問題をめぐっては、金総書記は6者協議に無条件で復帰し、その際に大量破壊兵器の実験を一時停止する用意があると表明した。
(中略)
 会談後、メドベージェフ大統領は「韓国へのガス輸送について、北朝鮮と協力することで合意した」と述べた。具体策を詰めるための特別委員会の設置を決めたことも明らかにした。計画が実現すれば、年間約100億立方メートル以上のガスの供給能力があるという。
(Asahi.com 2011年8月24日20時55分)

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 記事から読むに、ロシアと北朝鮮、加えて韓国との経済的な結びつきの強化が進んでいることがわかります。しかし、近年のロシア外交を見るに、ガスパイプラインというと、経済的な側面よりも外交的なツールとしての印象が強いように考えられます。
 実際に、ウクライナでは2006年から2009年にかけて、断続的にガスの停止を強行され、昨年2010年には、ベラルーシに対しても供給を停止する政策をとりました。これは、経済協力を逆手にとった、政治的影響力の行使だと考えられます。
 ロシアからガスを輸入するというのは、効率のよい政策であることは確かであって、このように基本合意がなされるのは、メリットが大きいからでしょう。具体的には、外貨の獲得、中国への一極エネルギー依存からの脱却などが挙げられます。ただ一方で、経済的協力を強めること、とりわけパイプラインの設備でもって恩恵を得ることは、ある意味政治を部分的に明け渡すことを意味します。つまりは、北朝鮮がウクライナ、ベラルーシのように、ロシアの政治的影響を強く受け始めていくのではないか、ということです。
 もちろん、エネルギー構造が即座に変化してゆくということは考えがたいですが、長期的に見たときに、そのような外交関係が想像できるように思えます。

 少し、大局的な話になりますが、北朝鮮(朝鮮半島)の地理性を考えたときに、中国、ロシア、そして日本という3勢力がぶつかりあう、地政学的にデリケートな場所であることが分かります。大きなパワー・バランスを考慮するロシアが、北朝鮮にひとつ肩入れすることは、地政学的にも合理的なことのように思えます。

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posted by Itta Tojiki at 23:09| Comment(0) | ロシアの外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月08日

ノルウェーとの大陸棚海域画定の話

 昨年、ロシアとノルウェーが大陸棚海域の画定に決着がつきました。日本でも、条約が調印された9月ごろには、よく報道がされたと記憶しています。そして、本日4月8日に、この条約に関する連邦法(ロシア国内の法律)に、メドベージェフ大統領が署名をした、とクレムリン(大統領府)は伝えました。

 この大陸棚海域の画定については、「国立国会図書館調査及び立法考査局」の報告を参照したいと思います。

同海域はロシア・ノルウェー両国の沿岸から伸びる大陸棚となっており、その境界画定に関する両国の交渉がソ連期の1970年代から続けられてきた。ノルウェーは北海の大陸棚の境界線画定の際に適用された「中間線主義」、すなわち陸上国境の延長線を境界線とする方式に従い、スヴァーバル諸島とノヴァヤゼムリャ列島及びフランツ・ヨーゼフ諸島との中間線を境界線とすることを主張してきた。一方のソ連・ロシアは、この地が北極に近いことから、極地の帰属決定の方式として主張される「セクター主義」、すなわち二つの経線と一つの緯線とによって囲まれる扇型の地を帰属させる方式に従い、経線を基本とする境界線を主張してきた。


ロシア ノルウェー 大陸棚.png

 地図で見ると、このようになります。真ん中の赤線が、今回の条約で画定した線で、それより左の線が、ロシアが主張していたもので、右がノルウェーのそれです。ちょうど中間をとるように線が引かれています。

 なぜ、ここまで長年にわたり対立があったかと言うと、この海域から得られる「利益」です。石油、ガスのみならず、漁業としてもかなりの利益が見込まれるといいます。
この画定については、ロシア側が「妥協」「譲渡」した、という見方がされます。それは、この海域でのエネルギー資源開発のために、ノルウェーの技術を必要とする状況で、早期の近代化を目指すロシアが、領土という利益よりも、他国との協力で得られる現実的な利益を選んだからです。

 ロシアのガス、石油会社といえば、言うまでもなく「ガスプロム」が挙げられます。一方、ノルウェーにも、世界的な企業である「スタトイルハイドロ」があります。
 今回参照したУТОР.RUの記事には、この一連の領海画定で、「ガスプロム」がまだ技術開発を行っていない海域を、ノルウェーに渡すことになったことは、ロシア国内で批判の対象となっていると伝えています。結局、「ガスプロム」が開発しそこなった海域は、「スタトイルハイドロ」が開発計画を進めるのだろう、と記事は続きました。

 いずれにせよ、こうやってロシアが近隣諸国との早期の問題解決に力を注ぎ、国の整備を進めいていることは事実だと思います。ロシアが中国との国境問題を完全に決着させたのは、3年前だということを考えると、ロシアの外交姿勢の意図がかいま見れるのではないでしょうか。

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posted by Itta Tojiki at 23:59| Comment(0) | ロシアの外交 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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